けんぼうは留年生

ノンジャンルで何か書きたくなった時に書く感じ

奥の深すぎる虫の話

 私は虫が嫌いだ。しかし、昔から敵を知り己を知れば百戦殆うからずと言う。つまり私は仇敵である虫のことを知る必要がある。

虫とは昆虫のことではない

 虫と言えば昆虫を思い浮かべがちだが、それでは不十分だ。昆虫ではない虫はたくさんいる。小学校の理科でも昆虫の特徴を習うが、クモやムカデは昆虫ではない。じゃあ私の嫌いな「虫」とは生物学的にはどのような範囲を示しているのか? そこを掘り下げていく。ちなみにミミズとかナメクジとか柔らかい連中は今回は虫にカウントしない。

六脚類

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 昆虫を含めた虫の一大分類。身体を頭・胸・腹の3パートに分けることが出来て、胸から3対6本の脚が生えていることが特徴。ちなみに昆虫はその中でも顎(口のハサミみたいな部分)の生え方が特徴的。

昆虫はクソ多い

 昆虫の種の数は100万種以上とも言われ、これは我々人類の知る生物種の半分以上である。もちろん微生物など研究が難しいタイプの生物も多いので、単純に種の数だけで「繁栄している・発展している」と言うことは出来ない。それでも陸上多細胞動物の中で昆虫が極めて多様で特殊な環境に適応しながら生き残ってきていることが示唆される。特定の植物と共生したり複雑な擬態を行ったり、特殊な環境で特殊な適応をしている昆虫がとても多いということだ。

"サナギ"はヤバい

 昆虫の一部が「サナギ」や「繭」になることは有名だが、これはよく考えるととんでもないことをしている。一度生まれた生き物が殻の中で溶かされて再び異なる形に整形されて出て来るなんて正気の沙汰ではない。こんなことが出来るのは昆虫だけだ。

甲殻類

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 「甲殻類ってエビやカニのことでしょ? 虫じゃなくない?」と思うかもしれないが、実は甲殻類の中にも虫がいる。ダンゴムシだ。ダンゴムシの近縁がダイオウグソクムシだと言えば何となく納得できるだろうか。ほとんどが陸上に暮らす六脚類と比べて甲殻類はそのほとんどが海に棲む生き物だが、ダンゴムシはその数少ない例外である。

 ちなみに我々がよく食べるエビ・カニ・ヤドカリ*1の類は全て十脚目に入るが、シャコはそこからまた随分遠い親戚になる。どのくらい遠いかと言うとダンゴムシと同じくらい別物だ。あまりオススメしないが、シャコを画像検索すると明らかにエビじゃないことが分かる。かなりキモい。

昆虫も甲殻類の一種だ

 現代の科学では六脚類は甲殻類から進化したことが分かっている。つまり昆虫はクモ・ムカデよりエビ・カニの方に近いということになる。六脚類と甲殻類を合わせたものを甲殻類と呼ぶ。

昆虫は陸上動物のパイオニア

 ところで、甲殻類は主に海に暮らす生き物で、六脚類は主に陸上に暮らす生き物。これは六脚類がクモ・ムカデとは別に独自に陸上進出してきたということを意味している。しかも、この分化が起きたのは4億7900万年前の話だ。そして、少なくとも4億年前には羽を生やして空を飛んでいたということが分かっている。昆虫はこの頃から植物と共生関係であり共に発展していったと考えられている。一方我々の先祖である脊椎動物が陸上に進出するのはそこからさらに3000万年程度かかり、空を飛ぶのはもっと後の話になる。ちょっと物知りな人ならいくつかの昆虫が何億年も前から似たような形態で生き残っていることを知っているかもしれない。つまり、昆虫の方が我々より陸上動物として先輩なのだ

多足類

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 みんな大嫌いムカデやヤスデのことだ。先述の通り六脚類とは別系統で独自に陸上進出を果たしている。また、多足類の特徴といえば何と言っても同じ様な形の節が延々と伸びていくところにある。その特徴から3億年前のヤスデの一種アースロプレウラはなんと30の体節を持ち体長は2mになり陸上節足動物で史上最大とも言われる*2

多足類+汎甲殻類=大顎類

 察しの良い人なら話が段々広い分類を目指していってるのが分かるかもしれない。多足類と汎甲殻類は姉妹関係にあり、この2つをまとめたものを大顎類と呼ぶ。その名の通り顎部分が共通する特徴だからだ。ついでに頭に触覚がついていることも特徴だ。ただし、進化の過程で特定の部分が退化していて例外となってる生き物もいる。現代の分類学では遺伝子やその動物の成分などから分類を判別しているので、形が似ていても他人の空似なのか親戚関係なのかがある程度特定できるようになっている。

鋏角類

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 クモ・サソリ・ダニなどが含まれる。カブトガニなんかも鋏角類だ。鋏角類の特徴は何と言っても文字通り「鋏角」つまりハサミの様な部分にある。先述の通り先頭にまず触覚が生えてくる大顎類に対して、鋏角類はハサミが生えてくる。サソリをイメージすると分かりやすいだろう。カニやエビのハサミは頭から生えてきてるわけではない。あれはあくまで腕の一部が進化したものだ。

節足動物

 ここまでやってきた動物全ての集合が節足動物という名前の分類になる。我々が「虫」と十把一絡げに読んで嫌っているグループは「節足動物」であり「哺乳類と爬虫類と鳥類と両生類」ぐらい範囲の広い動物群だと言えよう。付け加えると美味しいエビ・カニの類と気持ち悪い虫を分離することは不自然だということも分かる。甲殻類アレルギーの人が昆虫を食べて拒否反応を出したという事例をTwitterで見かけた。当然である。昆虫は汎甲殻類の一種なのだから
 そのぐらい違う生き物であるはずなのにクモもムカデもダンゴムシも昆虫もあのカサカサとした気持ち悪い雰囲気は共通しているというのもまた面白い。クモにいたっては昆虫に擬態する種までいる。同じ物が分化して共通の特徴を持っているのではなく、節足動物が陸上で生活しようとすると必然的にこうなるということなのだろう。クジラやイルカが魚のようにヒレを持つのと同じ様なことなんだろう多分。

まとめ

 そういうわけで今度虫を見かけたら、4億年以上に渡る節足動物の長く広い歴史に思いを馳せてみてほしい。私は思いを馳せた上でやはり気持ち悪いので殺す。だが、少なくとも「この世の虫全て滅びよ」と言うのは無理があることが分かった。地球の生態系の大部分は虫に依存していて人類が滅びるより虫が滅びる方が大変そうだ。

補足

 この記事は「モチ会」という定期オンラインLT会で発表したスライドを元に作成したものです。実際のLTはもっと簡単で短いものでした。
kembo.hatenablog.com
 モチ会は主催の私が1年以上失踪してたりとかあったんですが、有志のメンバーが継続してくれていて有り難いことに今もまだ続いてます。今少し活気づいていてもう少し人が増えたら2パートに分割出来るなみたいなことを考えてたりするので、良かったら是非遊びに来てみてください。(この記事は知識系の内容でしたが、創作活動や勉強の進捗報告的な発表の人も多いです。)

*1:タラバガニはヤドカリの仲間だ。

*2:根拠は化石なので「単に抜け殻と重なって長く見えただけでは?」みたいな説もある。3億年前の動物を直接見た人はいないのでこういった論争は絶えない。